概要
ステーブルコインUSDTの発行体として知られるテザー(Tether)が、イタリア・セリエAの名門サッカークラブ、ユヴェントス・フットボール・クラブの買収に向けて、筆頭株主であるアニェッリ家の持株会社Exorに対し、10億ドル(約10億ユーロ)の拘束力ある提案を行った。この提案は、規制当局の承認を条件とした公開買付け(TOB)の形をとっている。ユヴェントスの株価はこのニュースを受けて上昇し、市場の関心の高さを示した。
背景
テザーは以前からユヴェントスへの関与を深めており、今年初めには少数株式を取得し、その後所有比率を10%超に引き上げ、取締役会への代表派遣も行っていた。今回の完全買収提案は、この流れを発展させたものと言える。一方、売り手であるアニェッリ家は、Exorを通じてユヴェントス株式の65.4%を保有し、100年以上にわたりクラブを所有し続けてきた。ユヴェントスはイタリアスポーツの象徴的存在であり、セリエAの収益、スポンサーシップ、メディア露出において重要な役割を果たしている。
マーケット動向
テザーによる買収提案のニュースを受けて、ユヴェントスの株価は上昇した。これにより、クラブの株式時価総額は約11.6億ドル(10億ユーロ)近くに達した。Exorが現在保有する株式の評価額は、現在の株価に基づくと約6億2900万ドル(5億4000万ユーロ)と推算される。
影響と展望
この買収提案は、暗号通貨企業が従来型産業、特にスポーツ、メディア、インフラといった分野への多角化を積極的に進めていることを示す最新の事例である。テザー自身も、ステーブルコイン事業以外に、人工知能(AI)やエネルギー分野などへの投資を拡大しており、資産担保型金融商品への移行を示すトークン化ゴールド計画も進めている。ユヴェントスへの投資は、世界的に認知されたブランドをポートフォリオに加えるという、より広範な多角化戦略の一環と見られる。
買収の成否に関わらず、暗号資産業界で生み出された富が、従来のエリートスポーツ所有構造に変化をもたらしうる可能性を市場に示した点で意義深い。また、テザーはアブダビの規制当局からUSDTの承認を得るなど、グローバルな機関による利用を強化しており、伝統的金融・ビジネス領域への存在感を増している。
まとめ
ステーブルコイン大手のテザーが、イタリアの名門サッカークラブ、ユヴェントスFCの完全買収に向けて10億ドルの提案を行った。これは、同社がステーブルコイン事業を超えた多角化を進める中での大きな動きであり、暗号通貨企業が従来型の大規模ビジネスへの参入を本格化させていることを象徴する事例となった。提案はアニェッリ家の100年以上続く所有権に変更をもたらす可能性があり、今後の成否が注目される。