概要
米国通貨監督庁(OCC)は、国内銀行が顧客間の暗号資産取引を仲介する「リスクレス・プリンシパル」取引を行うことを正式に認める解釈書簡(Interpretive Letter 1188)を公表した。これにより、銀行は暗号資産の在庫リスクを負うことなく、取引仲介サービスを提供できるようになった。また、OCC長官は、暗号資産企業による連邦信託銀行免許(ナショナル・トラスト・チャーター)の申請を、資産がブロックチェーン上にあるという理由だけで門前払いしない方針を示した。
背景
OCCは米国財務省内の独立機関であり、国内銀行や連邦貯蓄組合、外国銀行の支店などを監督する。コンフローラー(長官)は、連邦預金保険公社(FDIC)の理事会や金融安定監督評議会(FSOC)のメンバーも兼務し、金融システム全体の安定に関する議論にも影響力を持つ。同庁は、銀行免許(チャーター)を付与する権限を持ち、そのプロセスは「ライセンシング・マニュアル」に詳細が定められている。
テクニカル詳細
解釈書簡1188が認めた「リスクレス・プリンシパル」取引とは、銀行が一方の顧客から暗号資産を購入し、直ちに他方の顧客へ売却する「マッチド・プリンシパル」取引を指す。銀行は相殺するポジションを帳簿に記録するため、暗号資産の正味のエクスポージャー(価格変動リスク)を実質的に持たない。負うリスクは決済リスクとオペレーショナルリスクに限定される。証券に該当するトークンについては従来の銀行法(国立銀行法第24条)の範囲内とし、その他の暗号資産については4つの要素から判断し、これが「銀行業務」に該当すると結論付けた。
マーケット動向
具体的な価格や取引量に関する言及は元記事にはない。しかし、この規制の明確化により、従来暗号資産に距離を置いてきた大手銀行が、バランスシートリスクを最小限に抑えた顧客向け暗号資産仲介サービスを構築する実用的な道が開かれた。また、暗号資産取引所やステーブルコイン発行体が、連邦信託銀行免許を取得する可能性が高まった。
影響と展望
この動きは複数の影響をもたらす。第一に、銀行がリスクを抑えながら暗号資産取引仲介に参入しやすくなり、市場の流動性やアクセスの向上が期待される。第二に、暗号資産企業が連邦信託銀行免許を取得すれば、全国規模での事業展開とOCCの監督下での信頼性獲得が可能となる。これは、取引所が機関投資家向けに取引、法定通貨決済、オンチェーン保管を一体化したサービスを提供するルートを生み出す。また、ステーブルコイン発行体がOCC監督下のバランスシートで準備資産を保有し、FRB接続の決済ネットワークを利用する道筋にもなる。一方で、銀行政策研究所(BPI)などの伝統的銀行業界団体は、信託銀行免許が本来の信託・受託業務主体のためのものである点を指摘し、より狭い免許で大規模な決済・準備資産業務を行う新規参入者との競争条件の公平性に懸念を示している。
まとめ
OCCによる「リスクレス・プリンシパル」取引の容認と、暗号資産企業への連邦信託銀行免許取得の門戸を閉ざさない方針は、米国における暗号資産規制の重要な転換点を示している。銀行システムと暗号資産エコシステムの融合を進めつつ、既存の銀行業務の枠組みの中でどのように位置付けるかを探るOCCのアプローチが明確になった。これにより、従来の金融機関の参入障壁が下がると同時に、暗号資産ネイティブ企業が連邦レベルの監督と信用を獲得する道が開かれた。今後の免許申請の審査結果が、市場構造を大きく形作っていくことになる。