米国証券取引委員会(SEC)、暗号資産保管に関するガイドを公開

米国証券取引委員会(SEC)は、暗号資産の保管(カストディ)に関する投資家向けガイドを公開した。このガイドでは、インターネットに接続された「ホットウォレット」とオフラインの「コールドウォレット」など、異なる形態の暗号資産保管方法のメリット・デメリットと、それぞれに伴うリスクを概説している。また、投資家自身が管理する「セルフカストディ」と、第三者に保管を委託する場合の違いや、第三者委託時に資産が貸し出される「再抵当流(リハイポシケーション)」や顧客資産が混合管理される可能性についても言及し、理解を促している。このガイドの公開は、前SEC議長Gary Gensler氏の下で暗号資産業界に敵対的だった姿勢からの大きな転換を示すものとして、暗号コミュニティからは「業界を潰そうとしていた同じ当局が、その使い方を教えている」と評価する声も上がっている。ガイド公開の前日には、SECが決済・清算会社DTCCに対し、株式やETF、政府債務証券などの金融資産のトークン化を開始する許可を与えたことも報じられており、規制当局の姿勢変化と伝統的金融のオンチェーン化の動きが注目される。

概要

米国証券取引委員会(SEC)は、暗号資産のウォレットと保管(カストディ)に関する投資家向けガイド(インベスター・ブリテン)を公開した。このガイドは、投資家向けに、様々な形態の暗号資産保管のベストプラクティスと一般的なリスクを概説している。具体的には、ホットウォレットとコールドウォレットの違い、セルフカストディと第三者カストディの比較、そしてそれぞれの方法が持つ利点とリスクについて説明している。

背景

SECによるこのガイド公開は、同委員会の規制姿勢における大きな変化を示している。かつて前SEC議長のGary Gensler氏の指導の下でデジタル資産と暗号資産業界に敵対的だった機関が、投資家教育という形で暗号資産の基本的な利用方法に関する情報を提供するに至った。暗号コミュニティからは、この動きを「変革的」と評価する声が上がっている。

テクニカル詳細

ガイドでは、主に以下の暗号資産保管の形態とその特徴が説明されている。

1. ホットウォレット: インターネットに接続されているウォレット。利便性が高い一方で、ハッキングなどのサイバーセキュリティ脅威のリスクを伴う。

2. コールドウォレット: オフラインで保管されるウォレット。オンライン攻撃のリスクは低減されるが、保管デバイスの故障・紛失・盗難や秘密鍵の漏洩による資産の永久喪失リスクがある。

3. セルフカストディ: 投資家自身が秘密鍵を管理し、資産を直接保管する方法。

4. 第三者カストディ: 取引所や専門のカストディアンなど、第三者に資産の保管を委託する方法。この場合、カストディアンが顧客資産を貸し出して収益を得る「再抵当流(リハイポシケーション)」を行っているか、あるいは顧客ごとに資産を分別管理せずに一つのプールで混合管理しているかなど、そのポリシーを理解することが重要だと指摘している。

マーケット動向

具体的な価格や取引量に関する言及はない。ただし、ガイド内ではビットコインの供給量がどのような保管形態に分かれているかを示す図表(情報源: River)が参照されている。

影響と展望

このガイド公開は、SECの暗号資産に対するアプローチが、厳格な規制執行から、市場参加者への教育とリスク啓発を含むより多面的なものへとシフトしつつある可能性を示唆している。暗号資産サービスを提供するDigital Ascension GroupのCEO、Jake Claver氏は、SECがカストディとベストプラクティスについて将来の暗号資産保有者を教育することは、投資家にとって「巨大な価値」を提供するものだと評価した。さらに、ガイド公開の前日には、SEC議長が従来の金融システムがオンチェーンへ移行しつつあると発言し、決済・清算会社DTCCへの金融資産トークン化の許可が与えられたことも報じられており、規制環境と伝統的金融のデジタル資産への統合が進展する兆候が見られる。

まとめ

SECが公開した暗号資産保管ガイドは、投資家保護の観点から、暗号資産の保管方法に関する基本的な知識とリスクを広く周知することを目的としている。ホット/コールドウォレットの技術的特徴、セルフカストディと第三者カストディの違い、そして特に第三者委託時に注意すべき点を明確にすることで、投資家の理解を深め、より安全な資産管理を促す内容となっている。これは、同委員会の暗号資産に対する従来の姿勢からの顕著な変化であり、業界の成熟と規制枠組みの進化を反映する動きとして注目される。

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