概要
Coinbaseが主導するオープンプロトコル「x402」は、HTTPステータスコード402「Payment Required」を活用し、ウェブ上でのマイクロペイメントを可能にする支払い基盤です。AIエージェントや自律型サービスがAPI呼び出しなどに対して行う、高頻度の小額取引(マイクロトランザクション)の課題を解決することを目的としています。2025年5月にリリースされ、12月までに7500万件、2400万ドル相当のトランザクションを処理しました。V2ではモジュール性が強化され、CloudflareやGoogle Cloudなどの主要企業も統合を進めています。
背景
従来、API利用に対する課金は、サブスクリプション階層や月次請求といったモデルが主流でした。しかし、自律型エージェントが新しいサービスを横断して1時間に数千回ものマイクロトランザクションを実行するようになると、これらのモデルは機能しにくくなります。x402は、この欠けていたピースを、HTTPに直接組み込まれた支払いの基本機能(プリミティブ)として提供するCoinbaseの取り組みです。
テクニカル詳細
x402のメカニズムは、HTTPステータスコード402「Payment Required」を復活させることから始まります。クライアントがリソースを要求すると、サーバーは402コードとともに、金額、資産(例:USDC)、ネットワーク、受取人といった機械可読な支払い条件を返します。クライアントはUSDCで支払いを行い、暗号化された支払い証明を「x402-Payment-Proof」などのHTTPヘッダーに含めて同じリクエストを再試行します。サーバー側は「ファシリテーター」と呼ばれるコンポーネントを通じてオンチェーンでの決済を検証し、検証が成功するとリソースを提供します。
V2では、ネットワークに依存しない識別子、プラグ可能なファシリテーター、ウォレットフック、サービスを発見するための「Bazaar」レイヤーなど、モジュール性が大幅に強化されました。ファシリテーターは、ブロックチェーンネットワークを監視し、支払いを検証し、署名付き認証を生成し、ウェブサイトがノードを実行せずに済むようにHTTPインターフェースを公開する役割を担います。
マーケット動向
2025年5月のリリースから12月までの7か月間で、x402は有料APIやAIエージェント向けに、7500万件、2400万ドル相当のトランザクションを処理しました。主要な生産ネットワークはSolanaとBaseであり、2025年後半には処理量でSolanaがBaseを逆転したと報告されています。これは、API呼び出し1回あたりの支払いが0.01ドル程度のマイクロペイメントにおいて、Solanaのより高速なファイナリティと低いガスコストが構造的優位性を持っていることを示唆しています。
影響と展望
Cloudflareが統合を発表し、x402 Foundationの共同立ち上げに参加したことは、x402が単なるCoinbaseのプロジェクトではなく、インフラストラクチャとして位置づけられ始めていることを示すシグナルです。Google Cloudの「Agent Payments Protocol」がx402をエージェント間決済に使用することを決めたことは、ハイパースケーラーのAIスタックとの結びつきを強めます。一方で、主要なリスクとして、Coinbaseの提供するファシリテーターサービスが最も成熟しており、初期のトラフィックが同社のインフラを経由することによる集中化が指摘されています。また、プロトコルにはネイティブトークンは存在しませんが、取引所が「x402」と名付けられた無関係な投機的トークンを上場するなど、混乱も生じています。
x402は、安定コイン、低コストなブロックチェーン、自律型エージェントという確かなユースケースの組み合わせにより、過去の試みとの違いを生み出しています。このプロトコルが、調整問題や規制の摩擦を乗り越えて基盤的なインフラとなるか、あるいは実験段階を脱せないかは、今後の展開にかかっています。
まとめ
x402プロトコルは、HTTPに支払い機能を組み込むことで、AIエージェント時代の高頻度マイクロトランザクションを可能にする新たな基盤を構築しようとしています。7500万件以上のトランザクション実績とCloudflareやGoogle Cloudなどの大型提携により、エコシステムは拡大しつつあります。しかし、インフラの集中リスクや流動性管理といった周辺課題の解決も、その成否を分ける重要な要素となるでしょう。