概要
暗号資産ステーブルコイン発行体のテザー・リミテッドに対する財務健全性(ソルベンシー)の懸念が再燃する中、デジタル資産投資会社コインシェアーズの調査責任者、ジェームズ・バターフィル氏は、同社が巨額の剰余金を有していることから、こうした懸念は「的外れ」との見解を示した。バターフィル氏は、テザーの最新の証明報告書に基づき、約68億ドルの剰余金が存在することを指摘し、現時点でのシステミックな脆弱性を示すデータはないと述べた。
背景
ステーブルコイン発行体の財務的健全性、特に資産の裏付けとリスク管理は、暗号資産業界において長年にわたり継続的な監視と議論の対象となっている。テザー発行のUSDt(USDT)は、時価総額で約1855億ドル、市場シェア約59%を占める最大のステーブルコインであり、その状況は市場全体に大きな影響を及ぼす可能性がある。
企業動向
テザーは、2025年第1~3四半期に100億ドルの利益を計上しており、従業員一人当たりの利益ベースで見ても異常に高い水準の収益性を維持している。同社のパオロ・アルドイノ最高経営責任者(CEO)は、格付け会社S&PグローバルによるUSDTの米ドルペッグ維持能力の格下げを「テザーFUD(恐怖・不確実性・疑念)」と反論し、第3四半期の証明報告書を防御材料として挙げた。
市場分析
ビットメックス共同創業者アーサー・ヘイズ氏は先週、テザーが「大規模な金利トレードの初期段階にある」と指摘し、同社のビットコイン(BTC)と金の保有価値が30%下落すれば「自己資本が消滅」し、USDTは技術的に「債務超過」に陥る可能性があると警告した。これらの資産はテザーの準備資産の相当部分を占めており、同社は近年、金へのエクスポージャーを増加させている。一方、S&Pグローバルは、金、貸付、ビットコインなどの「高リスク」資産へのエクスポージャーを懸念材料として挙げ、安定性への懸念からUSDTの格付けを引き下げた。
業界への影響
テザーをめぐる財務健全性議論の再燃は、ステーブルコイン業界全体に対する市場参加者の信頼とリスク評価に影響を及ぼす可能性がある。最大のプレーヤーに対する懸念は、市場全体のシステミックリスクの認識を高め、規制当局の注目をさらに集める要因となり得る。
投資家の視点
バターフィル氏は、ステーブルコインのリスクを軽視すべきではないとしつつも、現在のデータはシステミックな脆弱性を示していないと分析した。テザーが公表する定期的な証明報告書と巨額の剰余金は、短期的な流動性や債務返済能力に関する懸念を和らげる材料として捉えられている。一方で、資産構成におけるビットコインや金などの変動性資産の割合と価格変動リスクは、引き続き注目されるポイントである。
まとめ
コインシェアーズの調査責任者は、テザーの最新の財務データに基づき、同社に対する債務超過懸念は現状では根拠が薄いとの見解を示した。しかし、業界有識者や格付け機関からの批判が続いており、同社の資産構成と市場変動に対する耐性は、投資家と規制当局双方から継続的な監視対象となっている。