概要
ポーランド下院は、暗号資産市場を規制する「暗号資産市場法」について、カロル・ナヴロツキ大統領が行使した拒否権を覆す投票を行ったが、必要な5分の3の特別多数派を確保できず失敗した。これにより、同法案は廃案となり、欧州連合(EU)の暗号資産規制枠組み「MiCA」に沿った国内法整備は遅延することになった。法案は国家安全保障を理由に支持される一方、業界からは過剰規制として反対され、国内で意見が分かれていた。
背景
EUは「暗号資産の市場に関する規制(MiCA)」を可決し、域内での統一的な暗号資産規制の枠組みを構築している。加盟国はこれに沿った国内法を整備する必要がある。ポーランドのドナルド・トゥスク首相率いる政府は、国内の暗号資産市場を規制し、EUのMiCAに整合させることを目的として「暗号資産市場法」を6月に提出した。
市場分析
規制整備が停滞する一方で、ポーランドにおける暗号資産の利用と市場は拡大を続けている。ブロックチェーン分析会社チェーンアナリシスは、ポーランドを欧州の「大規模暗号資産経済圏」の一つと位置付けており、2025年の欧州暗号資産採用動向報告書によれば、2024年7月から2025年6月までの総取引量は前年比50%以上増加し、受け取った暗号資産の価値ベースで欧州内8位となった。また、ビットコインATMの設置台数も急増し、ポーランドは世界第5位のハブとなっている。
業界への影響
今回の法案廃案は、ポーランドの暗号資産業界に不確実性をもたらしている。法案は、詐欺防止や外国勢力による資産悪用防止の観点から国家安全保障上の優先事項として支持されていた。しかし、複数の暗号資産業界団体は、厳格過ぎるライセンス規則、高いコンプライアンスコスト、サービス提供企業の役員に対する刑事責任規定などを問題視し、これらの要件がイノベーションを阻害し、スタートアップ企業を国外に追いやり、非競争的なビジネス環境を生み出すリスクがあると反対していた。規制の不在が続くことで、投資家保護や市場の健全性に関する懸念が高まる可能性がある。
投資家の視点
明確な規制枠組みが整わない状況は、事業を展開する企業にとって法的不確実性というリスク要因となる。一方で、過度に厳格な規制が導入されれば、事業コストの上昇や競争力の低下をもたらす機会損失のリスクもあった。現在、政府は法制化プロセスを最初から再開する必要があり、規制環境が明確化するまでの期間がさらに延びることになる。その間も市場活動は活発に継続していることがデータから示されており、規制の遅れが直ちに市場の冷却化につながっているわけではない。
まとめ
ポーランド議会は大統領の拒否権を覆せず、暗号資産市場規制法案は廃案となった。これにより、EUのMiCAに沿った国内規制の整備は後退し、政府は立法プロセスを再開せざるを得ない。法案を巡っては国家安全保障とイノベーション促進の間で国内の意見が分かれた。規制の不確実性が続く中、ポーランドの暗号資産市場は取引量の拡大など実態としての成長を続けている。