概要
米国証券取引委員会(SEC)の暗号資産タスクフォースは、2025年12月15日に金融監視とプライバシーに関するラウンドテーブルを開催する。Zcash創設者のZooko Wilcox氏をはじめ、ゼロ知識証明開発者、市民的自由擁護派、プロトコル企業幹部らが参加し、ブロックチェーンのプライバシーツールとマネーロンダリング防止法執行の両立可能性を議論する。この会合は、プライバシーウォレット「Samourai Wallet」関係者の有罪判決など、プライバシーツールに対する規制圧力が高まる中で行われる。
背景
この会合の背景には、プライバシーツールに対する三段階の規制圧力がある。第一に、2025年11月、プライバシーウォレット「Samourai Wallet」の共同創業者であるKeonne Rodriguez氏とWilliam Lonergan Hill氏が、無免許の資金送付事業を運営した罪でそれぞれ5年と4年の実刑判決を受けた。司法省は、同サービスが2億3700万ドルに上る違法取引を容易にしたと主張した。第二に、その3ヶ月前には、ミキシングサービス「Tornado Cash」の開発者Roman Storm氏に対する裁判で、陪審員は無免許の資金送付共謀罪では有罪としたが、より重いマネーロンダリング共謀罪では審議が紛糾し、制裁関連の共謀罪では無罪を評決した。第三に、金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が2023年10に提案した、国際的な暗号資産ミキシングを「主要なマネーロンダリング懸念取引のクラス」として対象とする規則案(セクション311規則)は、2025年時点で最終化されていない。
企業動向
ラウンドテーブルには、プライバシー保護技術を推進する企業・プロジェクトの代表者がパネリストとして名を連ねる。Zcash創設者のZooko Wilcox氏、AleoのCEOであるKoh氏、Espresso SystemsのCSOであるJill Gunter氏、SpruceID創設者のWayne Chang氏らが、ゼロ知識証明やプライバシー保護計算の陣営を代表する。彼らが開発するシステムは、ユーザーが取引履歴全体を開示することなく、規制上の閾値を満たしていることや、制裁対象外の取引相手であることなどを暗号学的証明によって示すことを可能にする技術を基盤としている。
市場分析
記事では具体的な株価動向や取引量については言及されていない。しかし、SECの規制方針は、Zcash(ZEC)などのプライバシーコインや、関連技術を用いたデジタル資産の市場における位置付けに大きな影響を与える可能性がある。規制当局がプライバシー技術をどの程度許容するかは、これらの資産の流動性や取引所での取り扱い、ひいては市場価値に直接関わる問題である。
業界への影響
SECのラウンドテーブルの結論は、暗号資産業界全体、特にプライバシー強化技術(PET)に特化したプロジェクトの将来に重大な影響を与える。司法省によるSamourai事件やTornado Cash事件での対応は、「ツール」と「サービス」の区別を曖昧にし、プライバシー保護コードを展開する開発者を、銀行秘密法の義務が課せられる金融サービスの運営者として扱う枠組みを示唆している。SECの判断次第で、この枠組みが証券規制の文脈でも強化されるか、あるいは技術による解決策が認められるかが決まる。
投資家の視点
投資家にとっての主要なリスクは、規制の不確実性である。FinCENのセクション311規則が最終化され、ミキシング関連の取引に対する監視要件が強化されれば、プライバシーコインや関連サービスの運用コストが上昇し、利用が制限される可能性がある。一方、SECのラウンドテーブルで、ゼロ知識証明などの技術がコンプライアンス要件を満たし得るとの合意が形成されれば、規制順守とユーザープライバシーを両立させる新たなビジネスモデルの機会が生まれる可能性もある。長期的な見通しは、規制当局が「プライバシーは権利」と「プライバシーは犯罪を助長する」のどちらの立場を重視するかに大きく依存する。
まとめ
SECが主催する12月15日のラウンドテーブルは、米国における暗号資産のプライバシー技術の命運を左右する重要な会合となる。Samourai WalletとTornado Cashに関する司法判断が刑事責任の境界線を引いた後、SECは証券規制の枠組みの中で、プライバシー保護技術に存立の余地があるかどうかを判断するための公開記録を作成しようとしている。その結論は、技術者、市民的自由擁護派、業界関係者の意見を踏まえた上で下され、今後のデジタル資産規制におけるプライバシーの扱いを決定づけることになる。