デジタル資産トレジャリー企業、12月は運命の分かれ目に 回復か清算かの瀬戸際

暗号資産市場の乱高下を背景に、デジタル資産トレジャリー(DAT)企業の株式が厳しい局面に立たされている。ビットコインやイーサリアムをはじめとする暗号資産価格の急落に伴い、DAT企業の株価は、夏場には修正純資産価値(mNAV)の3倍、5倍、さらには10倍で取引されていたものが、現在では1倍前後、あるいはそれを下回る水準まで低迷している。核心的な懸念は、価格下落が続く中で、これらの企業がローン返済や資本評価の維持、あるいは単に債務支払能力を保つために、保有する暗号資産を投げ売りせざるを得なくなる「強制売却の悪循環」に陥る可能性だ。一方で、コインシェアーズのジェームズ・バターフィル研究責任者は、インフレ鎮静化や12月の利下げ観測といったマクロ環境の改善を背景に、回復シナリオも強く残されていると指摘。価格が反転すれば、DAT株を集中的に空売りしている資産運用会社のポジション解消が上昇 volatility(変動性)を増幅する「ショートスクイーズ」が起きる可能性もある。今後の行方は、企業が保有資産を保持できるかどうか、そして業界が収益のない純粋な資産保有モデルから、健全な事業基盤を持つモデルへと進化できるかにかかっている。

概要

暗号資産市場の変動を受けて、デジタル資産トレジャリー(DAT)企業の株価が大きく下落しており、12月はその運命を決定づける重要な月となる可能性がある。DAT企業の株価は、夏場には修正純資産価値(mNAV)の数倍で取引されていたが、現在では1倍前後まで低迷。暗号資産価格のさらなる下落が、企業の強制売却を引き起こす「悪循環」への懸念と、利下げ観測を背景とした回復とショートスクイーズの「好機」という、二つの対照的なシナリオが交錯している。

背景

暗号資産市場はここ数週間、マクロ経済への懸念(日本銀行の利上げに伴う円キャリートレードの巻き戻し懸念など)を背景に、ビットコインやイーサリアムをはじめとする価格が急落した。これにボラティリティの上昇、連鎖的な清算、主要機関による積極的な空売りポジションが加わり、投資家のパニックを招く状況となった。

企業動向

DAT企業の株価は特に大きな打撃を受けた。これらの企業は、流動性が低い、または相関性の高いデジタル資産を大量に保有するトレジャリーを抱えている場合が多く、価格下落に対する脆弱性が露呈している。コインシェアーズのジェームズ・バターフィル研究責任者は、多くのDAT企業が実質的な収益を生み出す事業を持たず、公開市場を利用してトークンを蓄積するだけの行動が業界全体の信頼性を損なったと指摘している。

市場分析

DAT関連株の株価は、夏場の高水準(mNAVの3倍、5倍、10倍)から、現在ではmNAVの1倍前後、あるいはそれを下回る水準まで急落している。価格下落が続けば、ローン返済や資本評価維持のために保有暗号資産を売却せざるを得なくなる「強制売却の悪循環(ドゥームループ)」に陥るリスクがある。一方で、インフレ鎮静化や債券市場の安定化、連邦準備制度理事会(FRB)を含む中央銀行による12月の利下げ観測が広がっており、これが実現すればドル安や流動性ストレスの緩和を通じてデジタル資産全体の反発を促し、DAT企業にとっての救済材料となる可能性がある。その場合、DAT株を対象とした広範な空売り戦略を取る資産運用会社がポジションを急速に解消し、上昇 volatilityを増幅するショートスクイーズが発生するシナリオも考えられる。

業界への影響

バターフィル氏は、最近の市場後退によりDAT業界の構造的弱点が露わになったと分析する。具体的には、トレジャリー戦略を支える堅牢な事業運営の欠如、他のブロックチェーン関連株式投資への資金移動、暗号資産価格の全般的な下落が要因として挙げられている。投資家は、株式希薄化、超高い資産集中、大きな暗号資産トレジャリーを持つが実質収入のない企業、製品を構築するのではなくトークンを蓄積するために公開市場を利用する企業といった行動に対して、以前よりもはるかに耐性が低くなっている。

投資家の視点

現在のDAT企業には、強制売却による悪循環への突入リスクと、マクロ環境改善を背景とした回復と空売り巻き返し(ショートスクイーズ)による急反発の機会という、二つの対極的な可能性が存在する。長期的には、バターフィル氏は市場の浄化サイクルが起こり、勢いだけに乗った企業は淘汰され、真の経済的価値を構築する企業が報われると予測している。次のサイクルの勝者は、多様な収益源を持つグローバル企業、戦略的(投機的ではなく)にデジタル資産を活用する企業、長期的なバランスシート管理を行う企業といった、本来想定されていたDATモデルに近い姿になるだろうとしている。

まとめ

暗号資産市場の激動は、デジタル資産トレジャリー(DAT)企業を重大な岐路に立たせている。株価は急落し、強制売却による悪循環のリスクが懸念される一方で、マクロ環境の改善、特に12月の利下げ観測は回復の潜在的な触媒となり得る。業界は、収益を生まない純粋な資産保有モデルから脱却し、規律あるトレジャリー管理と信頼できるビジネスモデルに基づく「本来のDATモデル」へと進化することが、生き残るための条件となる。12月は、これらの企業の命運が分かれる重要な月となる可能性が高い。

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