概要
暗号資産投資会社CoinSharesの調査責任者、ジェームズ・バターフィル氏は、BitMEX共同創業者アーサー・ヘイズ氏および格付け会社S&Pグローバル・レーティングズが表明した、ステーブルコイン「テザー(USDT)」の発行元Tether社の財務健全性に対する懸念を退けた。バターフィル氏は、Tether社の公開データはシステミックな脆弱性を示しておらず、同社は約68億ドルの剰余金を持つ強固な財務状態にあると主張した。
背景
この反論は、ヘイズ氏がTether社の準備資産の再配置(ビットコインや金への投資増加)がFRB利下げ局面において財務的安全性に圧力をかける可能性を指摘し、S&PグローバルがTether社の価値維持力の評価を「弱い」に引き下げたことを受けたもの。ステーブルコイン発行体の健全性は、暗号資産市場全体の安定性にとって重要な課題となっている。
企業動向
Tether社のCEO、パオロ・アルドイノ氏は、グループ全体で約2150億ドルの総資産を管理していると反論。同社の資本には約70億ドルの超過準備金に加え、約230億ドルの利益剰余金が含まれると説明した。また、準備資産のうちビットコインと金が占める割合は12.6%に過ぎず、70%超は短期米国債であると述べ、財務の健全性を強調。さらに、同社は米国債利回りから月間約5億ドルの利益を生み出していると指摘した。
市場分析
バターフィル氏の分析によれば、Tether社は2025年第1~3四半期に約100億ドルの純利益を計上するなど、業界で最も収益性の高い企業の一つ。資産約1810億ドル、負債約1744.5億ドルという構成は、約68億ドルの剰余金(エクイティ・クッション)を示している。一方、S&Pグローバルは、変動性の高い資産(ビットコインや金)への依存度が高まっていることがリスク要因であり、ビットコイン価格の下落が財務的裏付けを弱体化させる可能性があると警告していた。
業界への影響
ステーブルコインは暗号資産市場の流動性と安定性の基盤であり、その最大発行体であるTether社への信頼は市場全体に影響を及ぼす。今回の議論は、暗号資産業界におけるステーブルコイン発行体の透明性とリスク管理の在り方に対する関心を再び高めることとなった。アルドイノCEOは、批判の一部は競合他社からの圧力であると述べている。
投資家の視点
投資家にとって、Tether社の財務状態はUSDTの価値安定性を判断する上で重要な要素。CoinSharesは公開データに基づきリスクは過大評価されていると見る一方、ヘイズ氏やS&Pグローバルは資産構成の変化に伴う潜在的なボラティリティをリスクとして指摘。ステーブルコインに固有のリスクを無視すべきではないという点では、双方の見解に共通点がある。
まとめ
CoinSharesは、Tether社の財務データを分析した結果、同社の健全性に対する最近の懸念は根拠が薄いと結論付けた。しかし、ステーブルコインという商品の性質上、リスクを完全に無視すべきではないとも付け加えている。市場では、Tether社の高い収益性と強固な資本基盤を評価する見方と、その資産構成の変化を警戒する見方が対立している。