概要
国際送金サービス大手のウエスタンユニオンは、高インフレ経済圏におけるユーザー保護を目的とした「ステーブルカード」の導入計画を発表した。これは、同社が従来の国際送金事業から、多角的なデジタル資産戦略へと拡大するロードマップの一環である。また、独自コインの発行意向も明らかにし、200カ国に及ぶ既存の流通網を活かした展開を構想している。さらに、ソラナブロックチェーンを基盤とする安定コイン決済システムの構築や、デジタル資産ネットワークの稼働など、具体的な実行計画が進行中だ。
背景
アルゼンチンなど一部の新興市場では、年率250〜300%に達する高いインフレ率が続いており、海外からの送金が現地通貨で受け取られてから消費されるまでの短期間で、その実質価値が大きく目減りするリスクがある。例えば、500ドルの送金が1ヶ月後には300ドル分の価値しかなくなる可能性が指摘されている。こうした経済環境下では、価値が安定した手段による送金・決済ソリューションへのニーズが高まっている。
企業動向
ウエスタンユニオンのCFO、マシュー・カグウィン氏は、UBS主催のカンファレンスにおいて、同社のデジタル資産戦略に関する詳細を説明した。核心となるのは、高インフレ地域向けの「ステーブルカード」の提供と、同社独自のコイン発行計画である。ステーブルカードは、同社が米国で既に提供するプリペイドカードを発展させたものと位置付けられている。また、デジタル資産戦略の基盤として、複数のオンレンプ/オフレンププロバイダーと接続する「デジタル・アセット・ネットワーク(DAN)」を構築しており、2025年前半の稼働を目指している。
市場分析
同社は、その決済システムにおいて、ソラナ(SOL)ブロックチェーンを採用することを確認している。このシステムは、米ドルペイメントトークン(USDPT)を中心とし、アンカレッジ・デジタル銀行と共同開発したデジタル資産ネットワーク上で運用される。USDPTは2026年前半のローンチを予定し、提携取引所を通じて流通される見込みだ。さらに、同社は「WUUSD」の商標出願を行っており、ウォレット、取引機能、安定コイン決済処理を含む一連の暗号資産サービスを計画していることが示唆されている(出願は受理済みだが、審査官未割当状態)。
業界への影響
ウエスタンユニオンは、200カ国に及ぶ物理的な拠点ネットワークを持つ既存の国際送金大手として、デジタル資産、特に安定コインや関連決済サービス市場に参入する。これは、シティグループなど他の金融大手も安定コイン関連の取り組みを加速させている中で、伝統的金融とデジタル資産の融合が進む業界トレンドを反映している。特に、送金依存度の高い新興市場における競争環境に変化をもたらす可能性がある。
投資家の視点
同社は、広範な国際的流通網を「自然な優位性」と見なしており、独自コインの市場創造を通じて、経済性、コンプライアンス、流通全体を自社で管理し、既存事業を超える成長を目指す構えだ。高インフレ地域における送金価値の目減りという課題を解決する「ステーブルカード」は、新たな収益機会を創出する可能性がある。一方で、暗号資産関連事業は規制環境の変化や技術的リスク、市場の競争激化といった不確実性にも直面する。
まとめ
ウエスタンユニオンは、高インフレ経済における実用的なソリューションとして「ステーブルカード」を開発し、独自コイン発行を含む多角的なデジタル資産戦略を推進している。ソラナブロックチェーンを採用した安定コイン決済システム(USDPT)やデジタル資産ネットワーク(DAN)といった具体的なインフラ整備も進行中であり、世界的な送金ネットワークを強みに、デジタル資産領域への本格的な事業拡大を図っている。